現場のDXが進まない本当の理由──製造業の“分断された世界”が生む停滞

工場の自動機を開発していると、現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が驚くほど進んでいないことを痛感します。その背景には「技術的な理由」と「構造的な理由」が複雑に絡み合っています。

DXが進まないのは“現場が悪い”わけではない
製造業のDXが進まない理由として、世の中ではよく以下のように言われます。
  • -旧来のシステムに依存している
  • -デジタル技術の理解不足
  • -初期投資が重い
  • -データが分断されている
  • -DX人材が不足している
しかし、現場で自動機を開発している立場から見ると、もっと根本的な問題があると感じます。

それが **「工場の機器・通信規格がバラバラで統一されていない」** という構造的な問題です。

工場の“分断”を生む最大の要因:フィールドバスの乱立
工場では、機器同士をつなぐために **フィールドバス** と呼ばれる通信規格が使われています。

本来であれば、USBのように「どのメーカーでも同じ規格」であれば便利ですが、現実はまったく逆です。

現在、工場で使われている代表的なフィールドバスは以下の通りです。

  • -EtherCAT(ベッコフ系)
  • -PROFINET(シーメンス系)
  • -EtherNet/IP(ロックウェル系)
  • -Modbus
  • -CC-Link IE(日本のFA系)

これらは **互換性がありません。**

つまり、
**A社のラインにB社の機器を追加したい → フィールドバスが違うので接続できない**
という状況が普通に起きます。

“規格が違うだけで数十時間の工数”という現実
たとえば、既存ラインに新しいPCアプリや自動機能を追加したい場合:
  • -そのラインで使われているフィールドバスに合わせて通信を作り直す
  • -メーカーごとのSDKや設定ツールを覚える
  • -通信テスト・タイミング調整をやり直す

これだけで **数十時間〜数百時間の工数** が発生します。

本来なら「機能追加」だけに集中したいのに、**“規格合わせ”という無駄な作業に時間を奪われる** のです。

結果として、
**新しい機能を入れるスピードが遅くなる → DXが進まない**
という悪循環が生まれています。

日本の製造業は“規格戦争”で足を引っ張られている
日本では EtherCAT・PROFINET・EtherNet/IP がシェアを分け合っている状態です。

つまり、**どれか1つに統一される気配がない。**

この状態では、現場の自由度は永遠に上がりません。

PC側のアプリ開発者は、
「どの規格にも対応できるように」
という無理な要求をされ、開発コストが跳ね上がります。

“マスター・スレーブ構造”という古い前提
フィールドバスは基本的に **マスター(親)とスレーブ(子)** の構造です。

しかし、この構造にも問題があります。

  • -マスターが1つだと、その機器がすべてを管理しなければならない
  • -マスターが落ちるとライン全体が止まる
  • -マスター側(PLC)が複雑な処理を苦手としている

特にPLCはリアルタイム制御は得意ですが、**複雑なデータ処理やAI処理は苦手** です。

そのため、
「PCで処理したいデータをPLCに渡す」
というだけで大変な作業になります。

本来あるべき姿:フィールドバスの統一と“PC中心”の現場
もしフィールドバスが統一されれば、現場は劇的に変わります。
  • -どのメーカーの機器でも自由に組み合わせられる
  • -PCアプリがそのまま現場に導入できる
  • -AI・画像処理・データ分析が簡単に追加できる
  • -新しい機能を“数日”で現場に反映できる

つまり、**DXが一気に加速する。**

しかし現実は、
**規格が乱立 → 互換性なし → 開発コスト増 → DXが遅れる**
という構造が続いています。

まとめ:DXが進まないのは“現場のせい”ではなく“構造の問題”
製造業のDXが進まない理由は、「現場がアナログだから」ではありません。

本質的には、

  • -フィールドバスが統一されていない
  • -メーカーごとに規格がバラバラ
  • -PLC中心の古い構造が残っている
  • -PCアプリを現場に入れるのが難しい

という **“構造的な問題”** にあります。

これらが解決されれば、現場はもっと自由に、もっと早く、もっと柔軟に変われます。

そして、**現場のDXはようやく本当の意味で進み始めると思います。**

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